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2010年1月

2010/01/31

ジュリー & ジュリア

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製作年:2009年
製作国:アメリカ
監 督:ノーラ・エフロン

この作品を見ていて思い出すのは「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」(2008)のエイプリル(ケイト・ウィンスレット)や、「ボヴァリー夫人」(2009)のエマ(セシル・ゼルヴダキ)のことである。理想と現実のギャップに悩み苦しんでいるのは、本作品のジュリア(メリル・ストリープ)やジュリー(エイミー・アダムス)も一緒である。その出発点からどうして、ハッピーエンドにならず悲劇的な道を歩んでしまったのか。

エイプリルは生活を変えるためパリ移住にこだわり、エマは都市生活を享受するため夫の財産を使い果たす。彼女たちは現実を迷妄で歪めてしまったのだ。他者の力ではなく自分の出来る力で何かを成し遂げようとする。そうしなければ、理想へ辿りつける道は見つからない。

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パブリック・エネミーズ

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製作年:2009年
製作国:アメリカ
監 督:マイケル・マン

ジョン・デリンジャー(ジョニー・デップ)は芸能界を目指せば良かったのではないか。既に時代遅れとなりつつある銀行強盗にこだわったのも、スタイリッシュな生活を好んでいたのも、仲間を見捨てないないという忠誠心も、目には見えない一般大衆の支持を集めたいという願望から来ていると思う。デリンジャーに芸能で生きるための才能があるかどうかは分からない。ただ、犯罪者としてそれを成し遂げようとした事に彼の悲劇があったのではないか。

さらに、気になるのはメルヴィン・パーヴィス(クリスチャン・ベイル)の方である。最初こそ颯爽としていたものの、中盤から妄断を繰り返し迷宮の中へ入り込んでしまっている印象を受ける。デリンジャーを徹底して追い込む非情さも不足し、後半の盛り上がりを欠く一因になっている。これも史実と言われればそれまでであるが。

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キャピタリズム マネーは踊る

製作年:2009年
製作国:アメリカ
監 督:マイケル・ムーア

1%の富裕層が他の95%より多い富を独占する。どうしてアメリカ社会がこんなことになってしまったのか。サブプライムローンに端を発した経済危機。専門家ですら説明できない摩訶不思議なデリバティブ(金融派生商品)。巧妙に仕掛けられた搾取のシステム。資本主義は自由社会を実現するなど幻想でしかないことを教えてくれる。

明快な主張に対して賛否両論の巻き起こるマイケル・ムーア監督であるが、その内容もさることながら映画としての作り方が実にうまい。記録映像や音楽の挿入など絶妙であるし、よどむことなく流麗に進んでいく語り口もいい。終幕で使われているルーズベルト大統領の提言が実に興味深い。あの当時には、高尚な理想理念が残っていたのだ。アメリカは変わることができるのであろうか。

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2010/01/27

ラッシュライフ

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製作年:2009年
製作国:日本
監 督:真利子哲也/遠山智子/野原位/西野真伊

なんとも惜しまれるのは、伊坂幸太郎の原作小説に秘められた妙味が全く活かされていないことだ。それを書くとネタバレになってしまうのでここでは控える。例えばニュース映像などで、その妙味がさりげなく触れられているのであるが、最後になってもそれが強調されることなく幕引きになってしまい、呆気にとられてしまった。えぇ、これで終わりにしてもいいのという感じ。

東京芸術大学映像研究科の四人の学生監督によって製作されたオムニバスという形式になっているが、交錯する人生模様という意趣がもう一つ描ききれていない。個々のエピソードについては、それぞれ意外性のある話にまとめられているので、全体を繋ぎ合わせる構成をもう一工夫欲しかった。

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カールじいさんの空飛ぶ家

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製作年:2009年
製作国:アメリカ
監 督:ピート・ドクター/ボブ・ピーターソン

少年が少女と出会い、結婚して日常生活を共に過ごし、妻の死によって終わるひとつの物語。約10分にわたるこの冒頭のシーンを、誰もが誉め称えるであろう。これだけでも、号泣ものであるが、さらに深いドラマが用意されているから驚きである。無数の風船を使って飛ぶ立つ家。これがカール・フレドリクセン(声:エドワード・アズナー)の心象を巧みに表現している。

伝説の場所“パラダイス・フォール”への旅は、老人であろうとも精神的成長を成し遂げられるということを我々に教えてくれる。家を失うことで新たな家族を得るという結末に、私は再び号泣した。

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脳内ニューヨーク

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製作年:2008年
製作国:アメリカ
監 督:チャーリー・カウフマン

まれに、映画の粗筋紹介と、実際に観賞した際の印象との間にギャップを感じる時があるが、本作品も、その一本にあげられる。劇作家ケイデン・コタード(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、スランプ中にマッカーサー・フェロー賞受賞し、その賞金を使用して壮大な芸術プロジェクトをスタートするという粗筋紹介。でも、そんな内容の話ではないと思う。

現実と妄想の境界線があいまいになっているのは冒頭のシーンから始まっており、妻アデル(キャサリン・キーナー)と娘が家を出ていくのも、ヘイゼル(サマンサ・モートン)へ想いを寄せるのも、クレア(ミシェル・ウィリアムズ)と再婚することも、どこまで現実であるか全く分からない。これは最初から最後まで、ケイデンの脳内世界を彷徨している話ではないだろうか。とすれば、つじつまの合わないことも、さほど気になりませんでした。

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2010/01/26

千年の祈り

製作年:2007年
製作国:アメリカ/日本
監 督:ウェイン・ワン

アメリカで一人暮らしをする娘を心配して、北京からはるばるやって来る父。粗筋だけをたどっていけば、小津安二郎監督の「東京物語」(1953)の亜流かと予想しておりました。シー氏(ヘンリー・オー)とイーラン(フェイ・ユー)の思いは、最初から終盤まで平行線を辿り、重なり合うことがない。二人はアメリカの自由社会と中国の伝統社会の象徴と言ってもよいが、それだけでは終わらない。

問題を抱えていたのはイーランだけでなかった。シー氏にも拭い去れない過去がある。それが為に、コミュニケーション不全が起きていたのだ。こうして物語は別の側面が浮かび上がってくる。やはり映画は見てみないと分からないものだと実感しました。

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戦場でワルツを

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製作年:2008年
製作国:イスラエル/フランス/ドイツ/アメリカ
監 督:アリ・フォルマン

都合の悪いことは忘れてしまうんだ。忘れていたことすら、忘れてしまっている。これが実話であるというから、脳内世界の不可思議を改めて感じさせる導入部です。もし、兵役時代の旧友から悪夢の話を聞かなければ、一生思い出すことすらなかったかもしれないし、本作品も作られることもなかった。

それほどの苛烈なトラウマを植え付けられた“サブラ・シャティーラの虐殺”。1982年に何があったのか、本作を見ることで初めて知る。歴史の皮肉を感じさせる事件。民族虐殺の仕打ちを受けたイスラエル人が、パレスチナ人虐殺に手を貸すようなことをするなんて。唖然とするしかない。そのことを教示されたことだけでも、本作品の存在意義はあると思う。

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懺悔

製作年:1984年
製作国:ソ連
監 督:テンギズ・アブラゼ

何故、独裁政治が罷り通ってしまうのだろうか。勿論、独裁を強いるだけの強制力を備えた軍事権力を掌握しているから、誰も逆らえなくなってしまうのであるが、そこに到るまでの道を用意しているのは一般大衆であることがなんとも皮肉的である。英雄として持ち上げながら、手痛いしっぺ返しを喰ってしまう。

ヒトラー、ムッソリーニ、スターリンという悪名高い独裁者の特徴を寄り集めたヴァルラム市長(アフタンディル・マハラゼ)も、その一人である。ただ、本作品を見ていて気になったのは、独裁政治の犠牲になったのは、ケテヴァン(ゼイナブ・ボツヴァゼ)一家だけではなかっただろうに、他から非難の声があがってこないことである。葬儀は盛大に行われ、参列者たちは大いに嘆き悲しむのである。ケテヴァンが裁判で、自らの悲劇を語り始めて驚くことになるのであるが、そんな独裁者っているのであろうか。

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ボヴァリー夫人 ディレクターズ・カット版

製作年:2009年
製作国:ロシア
監 督:アレクサンドル・ソクーロフ

理想と現実のギャップ。こんな筈ではなかったという思いはどんな人の胸にも溜まっているだろう。その現実を乗り越えようと、自らの能力を振り絞り努力を続けていけば、例え失敗したとしても美談となる。だが、自分では何もせず、他者の力(家族の貯蓄や借金)を使って、理想を得ようとすればどうであろう。例えわずかな金額であろうと、他者の力に手をつけたところから破滅への道が始まっていると言える。一度、アクセルを踏んでしまえば、そのスピードに魅惑されブレーキの存在すら忘れてしまうからだ。

本作品の主人公、エマ・ボヴァリー(セシル・ゼルヴダキ)もその一人であった。飽き足らない家庭生活。押えきれない都市生活への憧れ。留まることのできない情事や浪費。簡単に得るものは簡単に失っていく。どんなに理想を追い求めていても、彼女自身は幸福感を得ることはなかったのであろう。エマは満ち足りるということを知らないまま苛烈な生涯を閉じる。人としての生きかたとは何かということを思考させ、深く感銘を受ける。

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2010/01/21

沈まぬ太陽

製作年:2009年
製作国:日本
監 督:若松節朗

この世の中には絶対というものはない。恩地(渡辺謙)が労働組合委員長として強硬姿勢で交渉を続けてきたのは、会社を良くするためというひたむきな情熱からくるものである。だが、結果としてどうであろう。理不尽とも言える長期間の海外勤務への辞令。組合は分断させられ、何も機能を果たせなくなる。挙句の果てが墜落事故である。彼のしてきたこと何も実になっていないのだ。

もし、詫び状を書いたとしても、特に状況は変わらなかったのではないか。自分は何も間違ったことはしていないという強固な信念は美徳である一方で、周囲の実情を見ようとしない頑迷さにも繋がっている。矜持を保つということは何か、大いに考えさせられる大作であった。

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2010/01/13

イングロリアス・バスターズ

製作年:2009年
製作国:アメリカ
監 督:クエンティン・タランティーノ

脚本、俳優、映像、どれをとっても高水準の出来栄えであり、クエンティン・タランティーノ監督の集大成と呼んでもいい。これまで作ってきた映画が、どこかで繋がっているようにも感じられた。音楽の使い方もいつもながら絶妙だ。原曲の由来を知らなくても(知っているともっと興趣が増すのであろうが)、本作品の雰囲気を大いに高め、感心いたしました。

登場人物に共感を持つ、待たないに関わらず、いつの間にか惹きつけられてしまい、目が離せなくなる。とにかく、どこへ話が転がっていくかわからない。主役級の登場人物があっけなくフェードアウトしていくのだ。見る者の抱く定番を、次々に壊していく。こうした感覚って、ポン・ジュノ監督に少し似ていると思いました。

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2010/01/11

気球クラブ、その後

製作年:2006年
製作国:日本
監 督:園子温

鬼才と呼ばれる園子温。気になる監督ではあるけれど、「自殺サークル」(2002)、「紀子の食卓」(2005)、「愛のむきだし」(2008)など見てきて、どうも自分には合わないなぁと思っておりました。本作品もさほど期待せず見始めたのですが、なかなか出来栄え。思わず画面に引き込まれました。やはり、映画というものは見てみないと分からないものです。

5年前に所属していた“気球クラブ・うわの空”。そのリーダー、村上(長谷川朝晴)が突然の事故死。久しぶりに再会するサークル仲間。そこで浮かび上がってくるのは、村上と美津子(永作博美)の微妙な関係だ。夢を追い続ける男と、彼を見つめることしかできない女。村上の想いの綴られたメモを付けた風船が宙に浮いたまま美津子に届かないエピソードが実に象徴的である。かつての楽しい飲み会はすでに思い出となっており、切なさを呼び起こすものでしかない。そして、一つの時代の終わりを噛みしめていたのである。

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2010/01/10

ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン

製作年:2007年
製作国:イギリス/フランス
監 督:エドガー・ライト

これは前評判通りの痛快な刑事アクション・コメディ映画であった。まず、その風貌からはエリート刑事と見えないサイモン・ペッグが主人公ニコラス・エンジェルをクールに演じているところからして可笑しい。警察映画マニアの相棒のダニー(ニック・フロスト)と日々行動を共にして、規則一点張りの彼が少しずつ変わっていく展開も良い。

まさか、4代目ジェームズ・ボンドのティモシー・ダルトンが、こんな怪演ぶりを発揮しているところにも唖然とした。あんな最後のショットをよく撮ったものである。ケイト・ブランシェットやピーター・ジャクソン監督のカメオ出演も楽しく、随所に遊び心満載で最後まで飽きさせない作品になっている。

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2010/01/08

フェイク シティ ある男のルール

製作年:2008年
製作国:アメリカ
監 督:デヴィッド・エアー

いかにもジェームズ・エルロイが生み出した主人公である。トム・ラドロー(キアヌ・リーヴス)は、“LA暗黒四部作”の中で登場したとしても、何の遜色もない男だ。浮気している最中に容体が急変し、病院の前に投げ捨てられたまま死んでしまった妻の存在。この過去を消し去るが如く、トムは犯罪捜査にのめり込んでいく。“正義のためには手段を選ばない一匹狼”というありきたりな男ではないのだ。

妄執にとらわれたまま危険な事件を解決していくが、それが何の助けになっていないところが空しい。周囲の情勢も見極められず、かつてのパートナー、テレンス・ワシントン(テリー・クルーズ)を誤解したまま見殺しにしてしまう事態に。そこで、彼の心の中で何かが目覚める。誰も望まない事件の捜査に猛進していくのだ。最後にたどりつく答えは、大概の観客が予感していたとおり、意外性はない。ただ、その黒幕も妄執にとらわれた男であり、このあたりもやはりエルロイらしいと思った。

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2010/01/07

ぼくたちと駐在さんの700日戦争

製作年:2008年
製作国:日本
監 督:塚本連平

どうも肝心のイタズラ戦争が面白くない。スピード違反を邪魔したり、落とし穴を掘ったり、SM雑誌を駐在所に置いたりと、実際に起こったことをベースにしているとはいえ、あまりにたわいない。最後の花火大会のエピソードも作り過ぎで感動まで届かなかった。こんなもので、熱くなる駐在さん(佐々木蔵之介)もどうかと思う。

せっかく、栃木県烏山を舞台にしているので、もっと地元の訛り言葉を使って欲しかったが、主人公ママチャリを演じる市原隼人はいつも通りのキャラクターで変わり映えしない。それが彼の良さかもしれないが、役柄の幅が出てこないであろう。とはいえ、彼を始め、石田卓也や冨浦智嗣らはなかなかの存在感。役者の輝きで映画を持たせていたと思う。

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2010/01/05

風が強く吹いている

製作年:2009年
製作国:日本
監 督:大森寿美男

三浦しをんの原作を先に読んでいたので映画では描ききれなかった細部も補完して見ることができたが、何も知らないで見ればかなり説明不足と感じるエピソードが散在している。カケル(林遣都)が問題を起こした高校時代や、食堂の娘、葉菜子(水沢エレナ)と部員たちの関係、ムサ(ダンテ・カーヴァー)やニコチャン(川村陽介)の人物背景など、もっとよく知りたいと思ったことだろうと思う。

そうした不満を抱きながらも、素直に感動できたのは、ハイジを演じた小出恵介の好演によるものである。「初恋」(2006)、「キサラギ」(2007)、「僕の彼女はサイボーグ」(2008)と、彼の出演作を見てきたが、さほど感心していなかった。だが、本作品の彼はどうであろう。箱根駅伝を語る情熱が真摯に伝わってきて、彼の言うことなら挑戦したくなるのも大いに分かるというものだ。とにかく素晴らしい。すべてを箱根駅伝に捧げたハイジは、指導者として大成することを予感させる。

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2010/01/03

2009年ベストテン

洋画部門
1 母なる証明
2 チェンジリング
3 私の中のあなた
4 グラン・トリノ
5 縞模様のパジャマの少年
6 イングロリアス・バスターズ
7 ジュリー & ジュリア
8 レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで
9 キャピタリズム マネーは踊る
10 マイケル・ジャクソン THIS IS IT

邦画部門
1 フィッシュストーリー
2 サマーウォーズ
3 ディア・ドクター
4 空気人形
5 ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ
6 劔岳 点の記
7 沈まぬ太陽
8 誰も守ってくれない
9 ポチの告白
10 風が強く吹いている

2009年は興業的に洋画苦戦の年と言われるが、作品の質では劣っているとは思えず、ベストテン候補作をざっと選んでみても、軽く20タイトルを越えてしまう。そこから10作品選ぶのに大いに苦労しました。字幕離れ、ミニシアター離れと、洋画を取り巻く環境は厳しいですが、洋画はまだまだ侮れないと感じさせた一年でありました。

さて、当初、「チェンジリング」、「グラン・トリノ」を見たときに、今年もクリント・イーストウッド監督作品の1-2フィニッシュで決まりかと思っていましたが、それを越える作品が出てこようとは。大いなる驚きと完成度の高さに感服したのは「母なる証明」でありました。冒頭のシーンが象徴しているように、見る者の予断を大きく裏切る展開が続く、全編飽きることはありません。ポン・ジュノ監督はさらに進化しております。

1位「母なる証明」、2位「チェンジリング」と並びが良いので、母性愛三部作として3位には「私の中のあなた」を。どんな犠牲を払おうとも我が子を守るために戦い続ける母親たちの姿が心に焼き付いて離れません。

4位「グラン・トリノ」 はマカロニ・ウェスタンやダーティ・ハリーのようなアクション・スターを演じ続けてきたクリント・イーストウッド自身が暴力の連鎖を断ち切る主人公を演じる。その意味は非常に重い。

5位「縞模様のパジャマの少年」は、なんと痛烈なラスト・シーンであるか。終盤からその展開が読めてくるのであるけれど、悲劇を止められない無力感を呪わずにはいられません。そのタイトルの意味が深く響いてきます。

6位「イングロリアス・バスターズ」は、タランティーノ監督の最高傑作ではないか。会話劇にあれほどのサスペンス感を持たせたことに感心する。

7位「ジュリー & ジュリア」と8位「レボリューショナリー・ロード」は好対照に位置付けられる。理想と現実の差を埋めようとするヒロインの出発点は同じなのに、この到着点の違いは何か。理想を手にするためには何をしたら良いかを考えさせられました。

9位「キャピタリズム」は、この世の中の仕組みを理解することの大切さを痛感。政治経済ニュースを額面的ではなく、裏の意味を考えなければいけない。中流家庭を崩壊させるアメリカ社会から何を学び取るかだ。

10位「THIS IS IT」は、マイケル・ジャクソンの偉大な才能を再認識。奇人変人でもなく、過去のスターでもない。最後までアーティストであり続けたのだ。その死去が今更ながら惜しまれてならない。

続いて邦画の総評であるが、洋画とは逆に、候補作を10タイトル集めるのでさえ大いに悩んでしまった。ベストテン級の作品を何作も見落としていることもあるのだけれど、それを差し引いても邦画は質的苦戦と言わざるを得ない。毎年、ベストワンはこれしかないという風格を感じさせる作品があるものだけれど、そういう強いインパクトが感じられなかった。来年に期待したい。

「フィッシュストーリー」は、絶対的な作品がない中、気持ちの良いラストに惹かれて1位に選びました。誤訳から始まった「フィッシュストーリー」がロック・ナンバーとなり、巡り巡って地球を救うことになっていく展開が実に痛快。表現者たちに理想と言ってよい。伊坂幸太郎の小説が続々と映画化されているが、その中でもトップに位置すると思う。

2位「サマーウォーズ」は、アナログ世界もデジタル世界も両立してこそ、人の生活は安定していくのではないかと教えてくれる。それぞれのフィールドで戦う主人公たちに感動する。

3位「ディア・ドクター」、4位「空気人形」は、西川美和と是枝裕和の師弟コンビを並べてみる。「ディア・ドクター」を1位にしても良かったのではあるが、もはや西川美和監督ならこれぐらい当たり前という期待度が高い。そんな期待を大きく突き抜けてしまったポン・ジュノとの差がここにある。

5位「ヴィヨンの妻」は、風格を感じさせる根岸吉太郎監督作品。だが、数々の主演女優賞を獲得した松たか子の熱演を認めるものの、よりイメージを一新するような飛躍を遂げて欲しいという思いも残る。

6位「劔岳」、7位「沈まぬ太陽」は大変な労作。映画としての満足度はいささか低いのだけれど、製作されたこと自体を賞賛したい。

8位「誰も守ってくれない」、9位「ポチの告白」は警察の知られざる一面を描いた社会派ドラマ。警察官といえども、当たり前であるが、生身の人間。社会正義の使命感だけを求めてはいけないのであろう。

10位「風が強く吹いている」は爽やかなスポーツドラマ。なんといっても小出恵介が絶品。彼の言葉は真実味を持って聞く者へ伝わってくる。時間の制約もあって、個々の人物背景が描ききれていないのは仕方ない。完成度は高くないかもしれないが、心地よい風を感じるようであった。

2009年は洋画87本、邦画36本の123本を劇場鑑賞。2010年も素晴らしい映画に出会いたいものです。

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