2008年は、盛岡から大阪へ移り、新たな生活を始めたということで記憶に残るという一年であった。新たな仕事の環境や引っ越しに関わる様々な用事のため、休日でも時間がなくなってしまうこともしばしば。前年と比べて鑑賞本数は少なくなったが、それでも洋画81本、邦画36本の117本見ることができた。見る機会が減った分、これはと思う作品を厳選しているので、大いに充実感を得られたと思う。その一方、例年、アクションやコメディーを主眼とする裏ベストテンも組んでいたのだが、作品をそろえきらず、今年は見送ることにした。
2008年は、ガソリン価格の乱高下が象徴するように経済環境が大きく激動した一年でもあった。様々に忍び寄る暗い影の中、家族、そして、人と人との絆を見つめ直す映画に心を動かされ、その当たりを主眼にベストテンを選んでみた。
●外国映画
01 ラスト、コーション
アン・リー監督の映像美に酔いしれる。格調高いとはこのことではないだろうか。時代の波の翻弄されるヒロイン。その任務の末に見つけた禁断の愛。彼女が選ぶ最後の道に、人と人の絆の不可思議を感じざるを得ない。
02 アメリカン・ギャングスター
犯罪者と警察官。正反対の人間ながら、二人とも仕事に関しては非常に勤勉で、どこか共通する資質を感じさせる。仲買人を通さず、直接製造者から仕入れて消費者に販売するというシステムを麻薬密売組織に持ち込んだアイディアに感心した。
03ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
ダニエルとイーライ。ふたりの間には愛と憎悪が複雑に絡み合った感情が放電する。似たもの同士であるから、ここまで反発するのではないか。プラス面とプラス面が接着するように。その臨界点がラスト・シーンだと思う。
04 チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
単に一人のお気楽議員が美しい大富豪と出会い、思いもかけない偉業を成し遂げる話ではない。彼はそれ以前から、アフガンの問題に関心を持ち、それを行使できるだけの政治力を持ち合わせていた。それでも、失敗してしまうところに、個人の限界を感じる。
05 フィクサー
人は何をきっかけとして良心に目覚めるのだろうか。利潤優先の資本主義社会では、利益という目的のためには、どんな社会的悪も正当化される。その繰り返しの果てには、何も残っていかないという不毛。マイケル・クレイトンに明日はあるのだろうか。
06ノーカントリー
何故、モスは巨額の金を手にしたのに、現場に戻っていったのか。ここにも、不思議な良心の発露を見る。凄惨な殺し合いと逃走劇を見事な映像でつづったコーエン兄弟の最高傑作。そこでいつまでも残るのは、モスの良心だった。
07この自由な世界で
不況風が強まった2008年の暮れに見ると、その切迫がより強く感じられた。この自由とは何か。生き残るために何をしてもいいが、すべてに自己責任をともなうことを大いに考えさせられた。家族と自分を守るために、アンジーは一線を越えていく。
08 つぐない
まだ恋も何か知らないような思春期の少女。彼女の一面的な思い込みは、二人の恋人の生涯を破綻させてしまう。その意味を知ったとき、彼女はどんな贖罪を行えばいいのか。自分の持てる能力を通して、何かを続けることに意味があると感じる。
09潜水服は蝶の夢を見る
昨日まで当たり前だったことが、今、当たり前ではなくなる。何かを失うことは、違う何かを得る機会だ。そのことを忘れなければ、常に道は開けてくる。視覚と聴覚以外、すべて奪われていることを再現させるカメラが素晴らしかった。
10 ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト
どうして、彼らはここまで生き残ってこられたのだろうか。その答えがこの映画の中にある。60歳を過ぎているとは思えないライブ・パフォーマンスの数々に、40年以上トップバンドでいる真髄を見る思いだ。
●日本映画
01歩いても 歩いても
長男の命日に家族が集まるという、ただそれだけの話であるが、是枝裕和監督は絶妙とも言える語り口で家族の一日を追いかける。何気ない会話の節々に、この家族の過去が次々と明らかにされていく見事な脚本だった。
02アフタースクール
「運命じゃない人」は決してまぐれ当たりではなかった。内田けんじ監督は期待に違わぬ面白い映画を作ってくれた。いい人だったと思わせておいて、実は悪い人だったというありきたりなオチでない、もう一歩進めた物語の展開に感嘆した。
03ぐるりのこと
もし、法廷画家という仕事をしてなければ、カナオは翔子を支えられなかったのではないだろうか。その時代の世相を象徴するような凶悪事件の裁判を傍聴することで、人には何が大切なのかを知らず知らずの内に学んでいったと感じる。
04トウキョウソナタ
現実感があるようで、どこか儚げなラスト・シーン。健二の見事なピアノ演奏は誰かの夢なのではないか。崩壊してしまった家族が再生することは容易なことではないであろう。果たして彼らの絆は健在なのか。
05人のセックスを笑うな
主人公みるめを翻弄するユリ。彼女はいったい何を考えているか、さっぱり分からないところが良い。理不尽に思えることが、この世の中にはたくさん起こる。それにどう対処していかねばならないか。その道を見つけることが一つの成長であると思う。
06百万円と苦虫女
深い人間関係を築くことを拒否し、ひっそりとただ一人だけで生きていこうとする鈴子。しかし、社会で暮らすということは、それを許しておいてくれない。そして、旅を続ける。彼女に終着駅が見つかるのだろうか。
07 ハッピーフライト
新人が失敗を重ねながら、その職業の大切さを学んでいくありきたりなドラマになっていないのが良い。綿密に取材された圧倒的なディティールと、映画ながらの脚色が見事に融合した快作。見ていて元気になる作品だ。
08 クライマーズ・ハイ
職業倫理とは何か、激しく問いかける作品である。“チェック、ダブル・チェック”と確認できる規範がどれだけ持ちえているかで、その職業の誇りを知ることができる。食品偽装事件が多発した2008年。その企業社会への批判とも感じられた。
09 青い鳥
こちらは現代の学校教育のあり方に波紋を投げる作品であったと思う。いじめ問題とどう向き合うのか。罪とは何か、罰とはどうあるべきか、考えさせられるポイントが多い。阿部寛が好演。「歩いても 歩いても」と合わせて主演男優賞をあげたい。
10実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)
作品の内容も圧巻であったが、本作品を作り上げた若松孝二監督の熱情にほだされてしまう。これを撮らなければ死に切れないという思いを、どれほどの人が抱いているだろうか。映画は産業の一翼でもあるが、それだけはない心意気を感じた。
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