帰郷
製作年:2004年
製作国:日本
監 督:萩生田宏治
「どうしていなくなってしまうんだ」。神社で姿の見えなくなったチハル(守山玲愛)に晴男(西島秀俊)は激しく怒る。この場面が本作品の白眉だ。
突然の母親の再婚。昔、別れの言葉もなく消えてしまった恋人・深雪(片岡礼子)との再会。そして、またも行方不明。晴男は自分にとって大切なものが喪失していくことを自分のせいだと考えてしまう男である。その内にこもった忸怩たる思いの強さは、締めつかれるばかりで解放されることがない。人と人の間で起ることはどちらかが全て悪いということはないのに。この場面の晴男の怒りは、それまで積もり積もったが一気に噴出したのだと思う。
その怒りを浴びてしまう災難のチハルがまたいい。シングルマザーに育てられた強さと寂しさが、場面場面によって発露されてくる。「心は胸にある。キュンと痛くなるから分るんだよ」という台詞も出てくる。この小さな胸が何度痛んだのだろうかと思うと切ない気持ちにさせられる。
タイトルバックで故郷に帰る電車の中、進行方向に首を曲げていた晴男だが、ラスト・シーンでは、逆に振り返って見せる。ここにも大きな意味がありそうだ。晴男はこの帰郷の時間で何かが変わったのだ。そう強く確信させられる。
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コメント
TBありがとうございました。
晴男の少女への父性愛は、徐々に形成されてきたのかと思いましたが、神社での怒り爆発から一気に加速したのかもしれないですね。ラストシーンの晴男、明らかに成長の跡が見えますが、振り返る行為は親子に対する未練も写しているかな、と思いました。
投稿: sabu | 2006/05/07 11:52