歓びを歌にのせて
製作年:2004年
製作国:スウェーデン
監 督:ケイ・ポラック
一見、歌によって閉塞感に喘ぐ村民に大きな勇気を与え、自分も再生していくというありきたりな物語に見える。その期待で鑑賞すると最初から違和感が残る。
心臓の病気のため音楽と離れた生活を送りたいのかと思えば、割と葛藤もなくコーラスの指導をすぐに引き受け、本格的な訓練を行う。最初の内はダニエル(ミカエル・ニュクビスト)の方が村人よりも熱心なくらいだ。かつていじめを受けた男との絡みも、彼が一方的やられてしまい、トラウマの克服とはいかない。家庭内暴力を受けるガブリエラ(ヘレン・ヒョホルム)のために歌を書くにしても唐突の感は歪めない。
この監督は本作品の中で何を見せようとしているのか。これはダニエルの幼年時代を回復する話ではないだろうか。いじめにあって村を離れなくてはならなくなった。そこで置き去りにしてしまった童心。村を出てから音楽一筋に生きてきたが、心臓の病気があり死と見つめ合った時、なくしてしまった子供時代を取り戻したい、その事をなにより望んだことではないか。
買い取って住む小学校。湖にある飛び込み台。何度も転びながら走れるようになる自転車。子供時代の喪失を一つずつ埋めるように日々を過している。そう考えれば、ラスト・シーンにも合点がゆく。
そして、子供の時、純粋に思い描いたのは、音楽によって人の心を開きたいという夢。ダニエルの存在によって、村の人々は大きな変貌を遂げる。10数年もひそかに思いつづけていた思いを吐露する登場人物が反復される。こうして彼の夢が一つ一つ実現していく。
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コメント
>死と見つめ合った時、なくしてしまった子供時代を取り戻したい、
こういう解釈も面白いですね。
なるほど、ラストシーンに無理なく連動しています。
投稿: マダムクニコ | 2006/05/22 20:31