« 県庁の星 | トップページ | ロード・オブ・ドッグタウン »

2006/05/22

歓びを歌にのせて

製作年:2004年
製作国:スウェーデン
監 督:ケイ・ポラック

一見、歌によって閉塞感に喘ぐ村民に大きな勇気を与え、自分も再生していくというありきたりな物語に見える。その期待で鑑賞すると最初から違和感が残る。

心臓の病気のため音楽と離れた生活を送りたいのかと思えば、割と葛藤もなくコーラスの指導をすぐに引き受け、本格的な訓練を行う。最初の内はダニエル(ミカエル・ニュクビスト)の方が村人よりも熱心なくらいだ。かつていじめを受けた男との絡みも、彼が一方的やられてしまい、トラウマの克服とはいかない。家庭内暴力を受けるガブリエラ(ヘレン・ヒョホルム)のために歌を書くにしても唐突の感は歪めない。

この監督は本作品の中で何を見せようとしているのか。これはダニエルの幼年時代を回復する話ではないだろうか。いじめにあって村を離れなくてはならなくなった。そこで置き去りにしてしまった童心。村を出てから音楽一筋に生きてきたが、心臓の病気があり死と見つめ合った時、なくしてしまった子供時代を取り戻したい、その事をなにより望んだことではないか。

買い取って住む小学校。湖にある飛び込み台。何度も転びながら走れるようになる自転車。子供時代の喪失を一つずつ埋めるように日々を過している。そう考えれば、ラスト・シーンにも合点がゆく。

そして、子供の時、純粋に思い描いたのは、音楽によって人の心を開きたいという夢。ダニエルの存在によって、村の人々は大きな変貌を遂げる。10数年もひそかに思いつづけていた思いを吐露する登場人物が反復される。こうして彼の夢が一つ一つ実現していく。

|

« 県庁の星 | トップページ | ロード・オブ・ドッグタウン »

製作年:2004年」カテゴリの記事

コメント

>死と見つめ合った時、なくしてしまった子供時代を取り戻したい、

こういう解釈も面白いですね。
なるほど、ラストシーンに無理なく連動しています。

投稿: マダムクニコ | 2006/05/22 20:31

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 歓びを歌にのせて:

» 歓びを歌にのせて [欧風]
この「歓びを歌にのせて」はこの前試写会で観ました。タイトルから分かるように歌の映画で、以前期待せずに観たら思わずモノスゴイ感動したこの映画っぽい感じかな~と思ってました。今回のはスウェーデンの映画で、スウェーデンの映画って観た事が無いんで、そういう点でも興味がありましたね。 ハガキに「クリスマスコンサート付試写会」と書いてあったんで、上映前にちょこっとコンサートをやるんだな~、と思いましたが、それがあんなとんでもない事になろうとは!とガチンコ!風に予告を書いて、まあ、それは後ほど。 最初... [続きを読む]

受信: 2006/05/22 06:39

» 心を開いて 「歓びを歌にのせて」 [平気の平左]
評価:85点{/fuki_love/} 歓びを歌にのせて 初日、LiLiCoのトークイベントのある回に行ってきました。 中々面白い話が色々聞けました。 まぁ、王様のブランチの放送を見ていないと、楽しめないものもあって、そこらへんはちと残念でしたが。 トークショーで聞いた、この映画を観るのに特に役立つ知識は、 スウェーデン人は何かとコーヒーブレイクを取る。 ということでしょう�... [続きを読む]

受信: 2006/05/22 07:05

» 歓びを歌にのせて [日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~]
世界的に有名な指揮者、ダニエルは、病気に倒れて第一線を退き、故郷の村に戻ります。音楽から離れるつもりでいたダニエルですが、村の聖歌隊の指揮を依頼され、彼らの音楽を愛する心に惹かれて、引き受けることになります。 聖歌隊のメンバーには、夫のDVに耐えながらも、素晴... [続きを読む]

受信: 2006/05/22 07:06

» 歓びを歌にのせて(映画館) [ひるめし。]
心に響け!天使の歌声 CAST:ミカエル・ニュクビスト/フリーダ・ハルグレン/ヘレン・ヒョホルム/レナート・ヤーケル 他 ■スウェーデン産 132分 2006年の最初の映画館で観た映画はこの作品です〜。本作はスウェーデンでは5人に1人は観た大ヒット作品らしい。「コーラス」でもそんなこと言ってたような・・・。 もっと感動するかと思ったらそうでもなかったな・・・。期待しすぎたのかな? う〜ん・・�... [続きを読む]

受信: 2006/05/22 20:20

» 歓びを歌にのせて /音楽はメシアだ [マダム・クニコの映画解体新書]
 いわゆる音楽スポ根ものとはひと味違う。シリアスなシーンも多いが、終局は9.11後の世界のあるべき姿を提示しているようにも感じられ、深い歓びが湧いてくる傑作だ。 歓びを歌にのせて  名声を手にしたスエーデンの世界的な指揮者&作曲家ダニエルは、身を削るような集中力と過密スケジュールが災いし、演奏会で倒れてしまう。彼は孤独のうちに引退して、7歳のときに離れた故郷の小さな村に引きこもるが、村人に�... [続きを読む]

受信: 2006/05/22 20:34

» ★「歓びを歌にのせて」 [ひらりん的映画ブログ]
2004年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。 ドイツかと思ってたら、スウェーデンでした。 [続きを読む]

受信: 2006/05/22 23:12

» 『歓びを歌にのせて』 [かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY]
歌うことを通して、生きることのステキさを実感。 すがすがしい歓びに満たされるスウェーデンの物語。 天才指揮者として世界的な成功を収めたダニエルは病に倒れ、生まれ故郷のスウェーデン北部ノルランド地方の寒村で療養する。そこで地元の教会のコーラス隊の指導を頼まれる。昨年のアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。 同じくコーラス隊を描いたフランス映画の『コーラス』もノミネートされていた。 そちらは寮生活を共にする少年達が主人公、こちらはそれぞれの生活を持つ大人達の物語。悪ガキ達を懐柔させて合唱さ... [続きを読む]

受信: 2006/05/23 14:06

« 県庁の星 | トップページ | ロード・オブ・ドッグタウン »