« ALWAYS 三丁目の夕日 | トップページ | TAKESHIS' »

2006/01/24

ヴェラ・ドレイク

製作年:2004年
製作国:イギリス/フランス/ニュージランド
監 督:マイク・リー
出演:イメルダ・スタウントン フィル・デイヴィス
   ピーター・ワイト エイドリアン・スカーボロー

1950年。ロンドン。ヴェラ・ドレイクは自動車修理工場で働く夫と二人の子どもたちとで貧しいが幸せに暮らしている。家政婦として働く一方で、近所で困っている人がいると身の回りの世話も行っていた。笑顔を絶やさず心優しい彼女の存在はいつも周囲を明るく和ませていたのだが…。

第61回ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞とイメルダ・スタウントンが主演女優賞を受賞。

観客に感情移入させ悲劇を共感させるなら、ヴェラ・ドレイクが堕胎を始めることになったきっかけをもっとしっかり説明しているはずである。だが、本作品では全くそれには触れられていない。そもそもこの話は単に世話好きで面倒見のいい女性が、善意で手を貸していたというものではない。あれっと思ったのは、彼女が堕胎の処理を済ませると、急いで帰ってしまうこと。それまでの近所の人との付き合い方と全く違っているのだ。処置後で不安におびえる女性ともう少し一緒に時間を過ごしてもおかしくないのに。そして、警察に逮捕されたときに素直に罪を認めてしまう。自分の行為に信念があればもっと毅然としているだろう。間違いなく彼女はその行為に罪悪感を抱いていた。

彼女の過去の何かに対しての贖罪として堕胎を行ってきたと思う。推測するに、彼女自身が堕胎の経験をしたということでなく、彼女自身は昔から堕胎行為を肯定していなかった。そのために彼女の大切な女性が堕胎行為をできずヴェラも力を貸すことができないで、とても不幸な結果を迎えたということではないだろうか。そのことが彼女の罪悪感として残り、堕胎を始めることになったのだろう。警部から尋問を受けたとき、困っている娘を助けたかったと繰り返すことからも、そう確信する。

沈黙の食卓の幕切れから、決して明るい希望を見出すことは出来ない。彼女の家庭は一度崩壊してしまうのだろう。だが、かつてマイク・リー監督は「秘密と嘘」(1996)や「人生は、時々晴れ」(2002)で、壊れてしまった家庭が再生される話を撮り続けているのだ。ヴェラが出所したときに、きっとこの家族も暖かな微笑みを取り戻す。その希望のサインは娘の婚約者が呟く「こんな最高のクリスマスはない」という言葉であろう。彼が中心になって家族が再生されるように気がする。

堕胎という行為はアメリカで今なお宗教観に基づいて合法化か非合法化で激しい論争を呼んでいる。だが、望まない妊娠ということはどこにでも起り得ることなのだ。堕胎を法律で禁じていてもお金さえあれば巧妙な抜け道が存在するエピソードが挿入され、またヴェラが刑務所に入ったときに堕胎の罪に収監されている受刑者の存在を映している。常に堕胎はなくならないことを強く印象付ける。

|

« ALWAYS 三丁目の夕日 | トップページ | TAKESHIS' »

製作年:2004年」カテゴリの記事

コメント

こんにちは♪
女性にとっては見ながら痛みを感じる内容でした。
>娘の婚約者が呟く「こんな最高のクリスマスはない」という言葉
あのもっさりした(笑)婚約者が言った一言が希望を感じさせて、良い終わり方でしたね~。

投稿: ミチ | 2006/01/24 22:28

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ヴェラ・ドレイク:

» ヴェラ・ドレイク [ネタバレ映画館]
 家政婦としてはりきっている主婦ヴェラ・ドレイクは、困っている女性を助けるために人知れず“必殺仕事人”となる・・・  映画館内が凍りつく一瞬。頼む、見逃してくれ・・・誰もがこう願ったはず。しかし、無情にも50年代のイギリスには厳しい法律があった。貧しいながらもささやかな幸せを分かち合う家族に飛びこんできた警察。彼らにも慈悲はあったのだが、医者の倫理や法の番人たちの前には為す術もない。戦争の痛�... [続きを読む]

受信: 2006/01/24 22:19

» 映画「ヴェラ・ドレイク」 [ミチの雑記帳]
映画館にて「ヴェラ・ドレイク」★★★★ ストーリー:1950年、イギリス。ささやかだが幸せに暮らすドレイク家の主婦・ヴェラ(イメルダ・スタウントン)。しかし彼女は家族にも話すことができない大きな秘密を抱えていた。それは望まない妊娠をして困っている女たちに、堕胎の手助けをすることだった。 私のようなグータラ主婦から見れば、ヴェラのような資質を持った人間はあまりにも素晴らしすぎてあきれるほど。 家政婦の仕事を掛�... [続きを読む]

受信: 2006/01/24 22:24

» 『ヴェラ・ドレイク』 [ラムの大通り]
-----この映画、みんな「重い、重い」って言うよね。 「タイトルロールのヴェラ・ドレイクは、 人助けと信じて堕胎を行っている女性。 これでは映画が明るくなるはずはない。 でも、監督のマイク・リーはその問題の是非を問うよりより “家族”の絆、信頼にスポットを当てている気がしたな」 -----マイク・リーって、即興的演出で知られる監督だよね。 「うん。この映画はその効果が実によく出ている。 そのことを分りやすく説明するた�... [続きを読む]

受信: 2006/01/24 22:35

» 『ヴェラ・ドレイク』〜未必の故意〜 [Swing des Spoutniks]
『ヴェラ・ドレイク』 公式サイト 監督:マイク・リー出演:イメルダ・スタウントン フィル・デイヴィス 【あらすじ】(goo映画より)1950年、ロンドン。自動車修理工場で働く夫と2人の子どもと肩を寄せ合い、貧しいながらも幸せに暮らすヴェラ....... [続きを読む]

受信: 2006/01/24 22:44

» ヴェラ・ドレイク/ 世界と繋がる [マダム・クニコの映画解体新書]
マイク・リー監督の最新作。女性の視点で堕胎という深刻な問題を扱っている。切り口はいろいろあるが、私は”ヴェラの行為”に焦点を当ててみた。 ヴェラ・ドレイク  1950年ごろのイギリスでは、1861年に制定された人身保護法により、堕胎が禁じられていた。もちろんわが国では合法化されていたが、イギリスでは1967年まで非合法だった。  そんな中、1929年に、「医師が認めた場合のみ合法とする」と改正されたが、手術費は高額で、貧... [続きを読む]

受信: 2006/01/24 23:31

» ヴェラ・ドレイク [芝居を追う、人間を見せる] [自主映画制作工房Stud!o Yunfat 映評のページ]
大好きなマイク・リーの新作を観るため東京まで行ってきた。 ストーリーはなんてことない。起承転結をていねいに追いかけるだけ。だがストーリーなんてものだけでは決して伝えられない面白さが、この映画にはある。 この映画は堕胎がストーリーの骨格となっているけど、堕胎の是非を問う形はとっていない。 監督マイク・リーはそれが良いとか悪いとかはっきり語るわけではない。問題提起とするには、ヴェラの行った堕胎... [続きを読む]

受信: 2006/01/25 01:38

» ヴェラ・ドレイク [まつさんの映画伝道師]
第249回 ★★★(劇場) (核心に触れる文面あるので、ご注意あそばせ) 「善意の第三者」という言葉がある。  簡単に言うと「ある事情を知らない第三者」ということなのだが、例えば購入した商品が「盗品」と知らずに購入した人は持ち主に返すべきか否かと....... [続きを読む]

受信: 2006/01/25 16:59

» ヴェラ・ドレイク [日っ歩~美味しいもの、映画、子育て...の日々~]
映画館の予告編を見て、観に行くべきかどうか迷っていたのだが、結構、評判が良いので、観に行ってみました。 確かに、主人公のヴェラ・ドレイク役のイメルダ・スタウントンの演技には引き込まれました。特に、警官が自宅にやってきた時の表情の変化は、見事だったと思います。... [続きを読む]

受信: 2006/01/25 17:11

» 「ヴェラ・ドレイク」 [こだわりの館blog版]
7/31 銀座テアトルシネマ にて 本当に普通のおばさんだったんです。 ある“重罪”を犯している以外では! 監督・脚本:マイク・リー 出演:イメルダ・スタウントン、フィル・デイヴィス、ピーター・ワイト、エイドリアン・スカーボロー、     ヘザー・クラニ... [続きを読む]

受信: 2006/01/25 21:22

» 彼女の気持ちが見えてこない◆『ヴェラ・ドレイク』 [桂木ユミの「日々の記録とコラムみたいなもの」]
9月9日(金) 名演会館にて アカデミー賞では『監督賞』 『主演女優賞』 『脚本賞』にノミネートされた、マイク・リー監督の新作。こういう作品を「それほど面白くなかったし、感動もしなかった」と言うと、「冷酷な人間」という烙印を押されるのかもしれない。でも正....... [続きを読む]

受信: 2006/01/25 22:26

» <ヴェラ・ドレイク>  [楽蜻庵別館]
2004年 フランス・イギリス・ニュージーランド マイク・リー監督 125分  出演 ヴェラ:イメルダ・スタウントン    スタン(ヴェラの夫):フィル・デービス    ウェブスター警部:ピーター・ワイト    フランク(スタンの弟):エイドリアン・スカーボロー    ジョイス(フランクの妻):ヘザー・クラニー    シド(息子):ダニエル・メイズ    エセル(娘):アレックス・ケリー    ヴェラに判決を下す裁判長:ジム・ブロードベント    エセルにプロポーズするレ...... [続きを読む]

受信: 2006/01/29 11:56

» ヴェラ・ドレイク [toe@cinematiclife]
見たいな~。と思っていて、最終日にギリギリ間に合って見ることができた。 銀座テアトルシネマにて鑑賞 <STORY> 第二次大戦後間もないイギリス。 ヴェラ・ドレイク (イメルダ・スタウントン) は複数の家の家政婦をしている。 夫は弟と車の修理工場を経営し、長男・シドは仕立て屋、長女・エセルは電球工場に勤務している。 世話好きなヴェラは、一人暮らしの隣人レジーを食事に招待する。 それが縁でエセルとレ... [続きを読む]

受信: 2006/01/31 00:43

« ALWAYS 三丁目の夕日 | トップページ | TAKESHIS' »