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2005年12月

2005/12/28

変身(佐野直樹監督)

製作年:2005年
製作国:日本
監 督:佐野直樹

湖のある森を彷徨っていると「ジュン」と呼ぶ声が聞こえた。その時、純一は病室で長い昏睡から目覚めた。なぜ病院のベッドにいるのか彼は全く分からなかった。工場で働いていたこと。絵が好きなこと。画材店で働く恵を好きになったこと。勇気を出して恵を誘ったことなど、少しずつ思い出してくるのだが…。

第9回みちのく国際ミステリー映画祭で鑑賞。

最近の流行である記憶を巡る物語だ。だか、来場された佐野直樹監督のお話では、原作が発刊された1991年頃からずっと映画化にしたいと熱望されていたとのこと。それがなかなか果たせなかったが、機会があるごとにこの企画を出し続けて、ようやくその念願が適い初監督作品として完成させることが出来たとのお話でした。この辺は製作までに10数年かかった野村芳太郎監督の「砂の器」(1974)を想起させる裏話でした。

そこまで原作に惚れ込んだのは、記憶を追い掛けるミステリーとしてより、ラブストーリーとしての側面に惹かれたからということでした。映画もそのような作りになっています。これも監督の計算した演出だと言っておられたが、冒頭の純一(玉木宏)と恵(蒼井優)の恋の過程が現代とは思えないくらいシャイで繊細。観ていて気恥ずかしくなるようなものである。それが後半になって効果をあげているのだ。この純朴過ぎる純一がいかに変わっていくのか。激しい感情の推移を玉木宏が巧妙に演じている。

ただ、直接的な感情表現、例えば大泣きしたり、絶叫したり、激怒したりという行為が出てくるものは、仰々しく感じられてあまり好きになれない。舞台ならそれもいいのだろうが、映画の表現としては駄目なのだ。本作品もそれに相当する。

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2005/12/27

運命じゃない人

製作年:2004年
製作国:日本 
監 督:内田けんじ

婚約者の浮気を知り部屋を飛び出した真紀。行く宛てもなく一人レストランに座っていると、見知らぬ男から声を掛けられる。彼は私立探偵の神田で、中学時代の同級生・宮田と二人で食事していた。宮田は突然姿を消してしまったあゆみのことが忘れられず、覇気をなくている。神田は宮田を励ますため真紀に声をかけたが…。

第9回みちのく国際ミステリー映画祭で鑑賞。

内田けんじ監督も来場し、「気軽に観てもらえるために、死ぬ気で一年間脚本を作りました」と語っておられました。そうなのですよね。たかが娯楽作品だからといって、いい加減な気持ちで作られた作品は、やっぱりそれなりのものしかできない。熱心さがあれば必ずいい映画に仕上がるかというと才能の問題もあって一概にはそう言い切れない。だが、まず必死さが前提としてなければ、観る者の胸を打つようなものは何も生まれてこないと思う。

「30歳を過ぎたら、運命の人なんて出てこない。もう文化祭もクラス替えもないんだよ。友達から始まって少しずつなんてことは絶対に起こらない」。正確な引用ではないがだいたいこんな趣旨で神田は、失恋から立ち直れない宮田へ次の恋を積極的に探せと励まします。この台詞が印象深い。

本作品が際立っているのは、この場面はレストランであったが、コーヒーを注ぎにきたウェーターがこの台詞を聞いてショックを受けているところも、さりげなく描写されているところ。直接、本筋とは絡まないが、こうした細部の充実が映画を豊かにしている。

真紀が鍵を閉め部屋を出るところから映画は始まり、彼女が宮田の部屋を訪ねるところで映画は終っていく。この計算された構成も見事。上映後にこの事を内田監督にお話したら「よく気がついてくれましたね」と笑顔で答えてくれたことも、貴重な思い出として残り続けるでしょう。

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2005/12/26

マダムと奇人と殺人と

製作年:2004年
製作国:フランス/ベルギー/ルクセンブルク
監 督:ナディーヌ・モンフィス

ベルギーのブリュッセル。レオン警視の元へ名画収集家の墓の後ろに隠されていて右腕が切断されている死体を見つけたという匿名の電話が入る。彼はなぜか触ったものを次々と壊していく刑事ボルネオと愛犬バブリュットを連れて捜査を開始する。墓に後ろにはなかったが、墓守がひそかに隠していた死体を見つけるのだが…。

第9回みちのく国際ミステリー映画祭で鑑賞。

本作品に登場する個性的な登場人物はパリのモンマルトル街に実在する人々からインスパイアされているという。モンマルトルといえば「アメリ」(2001)がすぐに浮かんでくる。そのジャン=ピエール・ジュネ監督がテクニカルコーディネートとして本作品に参加している。冒頭で大道芸人の飛ばしたしゃぼん玉がレオン警視(ミシェル・ブラン)の前で弾けるのは、モンマルトルとブリュッセルがつながっていることを表現したものであろうか。

連続殺人事件を追い掛けるミステリー劇を期待すると、大外れ。レオン警視は全く働いていないといってよく、事件の真相を知るのもあまりに偶然に頼り過ぎている。全くお粗末な展開で、これはコメディーとして見るべき作品だ。とは言え、犯行の動機は珍しく、なかなか興味深いものであった。

登場人物はみな個性的であるのは一目瞭然であるが、それぞれ独自のファッション観、芸術観、美意識を持ち合わせているのが可笑しい。あまりに奇抜すぎて他者から理解されないのであるが、それに全くめげていないのが面白い。

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2005/12/25

アマロ神父の罪

製作年:2002年
製作国:メキシコ
監 督:カルロス・カレラ

メキシコのアルダマ地方。将来を嘱望された若きエリート神父アマロは、ベニト神父の手伝いをしながら様々なことを学んでいくはずだった。だが、ベニト神父の腐敗を知りショックを受ける。そんな彼も美しく信仰心の篤い16歳の少女アメリアと親しくなり、許されぬ感情が芽生えていることに気付くのだったが…。

女性を愛するという行為を禁じられた神父は、その存在自体が大いなる矛盾を抱えている。前半に婚姻を許してはといった台詞も出てきたが、人が人を好きになる感情は誰にも止めることはできない。

だが、そうした自己矛盾に逡巡するアマロはただの若き神父でない。枢機卿のお気に入りと言われるだけに、新聞社へ脅しをかけたり、恋人の密会場所をみつけたり、鋭利な頭脳を悪用する腹黒さを持ち合わせている。幕切れも印象深く、こうした宿命に守られた男もいるのだ。彼の無垢なる心は霧散し、腐敗の道を突き進んでいくことを予感させる。

彼とは対称的に、どんどん状況を悪化させていくアメリアの元恋人の姿が哀しく残る。恋人も職も失い、濡れ衣を着せられて、喜びのない人生を過ごすのだろうか。その父親のように。

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ヒューマンネイチュア

製作年:2001年
製作国:アメリカ/フランス 
監 督:ミシェル・ゴンドリ-

異常に毛深い体質の女性ライラはマナーに異常な関心を示すネイサン博士と出会い恋に落ちる。ネイサンは礼儀正しい文明社会こそが人類を救うと信じていた。ある時、二人は森へ出かけると、自分を猿だと思い込んでいる男に出会う。ネイサンは彼を“人間”として再教育しようと研究所へ連れ帰るが…。

三人三様の証言で物語が進んでいく。しかも、一人は死者ということで黒澤明監督の「羅生門」(1950)を連想させる作りになっている。何故、ネイサン(ティム・ロビンス)は死んでしまったか。その疑問と共に、最後まで画面にひきつけられる。

マナーとは何か、皮肉的に描かれている。マナーが類人猿と人間を分ける違いの象徴になっている。マナーを身に付けることで、ありのままの自分を捨てて、世間一般の理想的人物に変わって登場人物たち。その姿はどこかぎこちない。そうかといって、“ありのままの自然が一番だ”というような単純な落ちでも終らない。この中途半端の浮遊感こそ、さすがチャーリー・カウフマンのシナリオだと思わせる。

「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでエオウィン姫を演じていたミランダ・オットー。彼女がネイサンを誘惑する研究所助手として出演していたことが発見。

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花嫁はギャングスター

製作年:2001年
製作国:韓国
監 督:チョ・ジンギュ

女組長のウンジンは、幼い頃に孤児院で生き別れになった姉をようやく探し当てる。だが、姉は末期ガンで余命僅かの状態だった。ウンジンは姉のために結婚を決意する。さっそくお見合いをするが、かわいらしく振る舞えず失敗ばかり。やっと、モテないけれど真面目な公務員スイルを見つけ、どうにか結婚に持ち込んだが…。

「たった一人で50人の敵を倒した」という女組長ウンジン(シン・ウンギョン)の武勇伝。それを冒頭で見せる。雨中の格闘シーンはスタイリッシュでクール。ここで一気に引き込まれたのだが、後が続かない。

コメディーって、逃れる術を全て失ってしまった設定に入り込んでしまった登場人物が、悪戦苦闘する様が可笑しいのである。本作品の主人公が結婚しなければならなくなるという設定に無理があるのではないか。無論、儒教の精神が息づいており、目上の人の言葉が絶対的な意味を持つにしても、黒社会で組長を務めるものが、こんなことでドタバタするのかという思いが残り続ける。

不自然な結婚をした者同士がある事件をきっかけに惹かれあうという流れは、この種のドラマのパターンであるが、それも崩されている。スイルがウンジンの代わりに殴り込みをしてはいけないでしょう。確かに組の歴史を語る場面が反復され、コメディーポイントにはなっているのだが、ドラマとしては物足りない。

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2005/12/24

Mishima

「Mishima:A Life in Four Chapters」★★★★
(ビデオ)
1985年アメリカ 監督:ポール・シュレイダー
出演:緒形拳 沢田研二 佐藤浩市 永島敏行

1970年11月25日。自衛隊市谷駐屯地で自決した三島由紀夫。その自決当日の行動を追いながら、「金閣寺」、「仮面の告白」、「鏡子の家」、「奔馬」などの代表作を使って三島由紀夫の幼年期からの現在までを描く異色作。日本では未公開、ビデオも発売されていない。
第38回カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞。

シネマファンの知人からアメリカ版のビデオを借りて観る。当然ながら日本語字幕などないので、どこまで理解できるのか不安であった。だが、ナレーションだけが英語で、役者の台詞は全て日本語だったので、興味深く鑑賞できた。

まず、日本人俳優の豪華さに驚嘆する。この当時の主役を張れるようなスター俳優がずらりと並んでいる。彼らが三島文学ならではの美意識を体現させている。特に「鏡子の家」に出演している沢田研二だ。「あなたの肌があまりにきれいだから、切りたくなったの」と女性に言わせるような男を、身を切るような殺気を持って演じている。この頃の沢田研二の素晴らしさが凝縮されている。

石岡瑛子がデザインした美術セットにも大いに感嘆する。最初から死へ向かってゆくことが分かっているので、緊迫感あふれるフィリップ・グラスの音楽が胸に迫ってくる。

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トラフィック

製作年:2000年
製作国:アメリカ
監 督:スティーヴン・ソダーバーグ

ティファナ。メキシコ州警察の警官ハビエールはサラサール将軍の密命を受け麻薬カルテル一味の壊滅に協力する。オハイオ。新任の麻薬取締最高責任者ロバートは娘が麻薬に溺れていることを知る。サンディエゴ。麻薬王の妻は夫と子供を守る為、自らも悪の組織に手を染めていくのだが…。

第73回アカデミー賞でベニチオ・デル・トロが助演男優賞、監督賞、脚色賞、編集賞を受賞。第51回ベルリン国際映画祭でベニチオ・デル・トロが銀熊賞(男優賞)を受賞。

アメリカは麻薬戦争に負けた。その無念の呟きが深く胸に焼き付く。本作品は、麻薬の供給源をいくら取り締まっても不毛であることを感じさせる。ひとつの組織を壊滅させたとしても、別の組織の台頭を生みだすことになるだけだ。アメリカ社会を蝕んでいる麻薬の実態を、麻薬の輸出側、麻薬の流通業者、麻薬を取り締まる側、麻薬の消費者という複数の視点から描く。麻薬は産業として確立されてしまっているのだ。

ハビエール(ベニチオ・デル・トロ)は子供たちのために野球場の照明を作り、ロバート(マイケル・ダグラス)は仕事を辞めて娘の治療に専念する。彼らの決断の重さ。その麻薬に対抗するため本当に大切で必要なものは、子供たちへの教育ではないかと本作品では訴えかけている。

臨場感ある映像にも魅了された。本作品を観るのはこれで三回目になるが、メキシコ=黄色、ワシントン=青の色分けは何度観ても斬新で鮮烈な印象を受ける。

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王は踊る

「王は踊る」★★★★(BS)
2000年ベルギー フランス ドイツ
監督:ジェラール・コルビオ
出演:ブノワ・マジメル ボリス・テラル
   チェッキー・カリョ コレット・エマニュエル

5歳で国王となったルイ14世。14歳になった今も政治の実権は母とその愛人に握られていた。ルイは音楽とダンスに情熱を傾け、音楽家にして舞踏家のリュリの創り出す音楽に魅せられていた。リュリも聡明で美しいルイに特別な感情を抱き始める。そして、彼のために3000曲ものの音楽をつくりあげるのだが…。

自分以外の何者かに依存して生きることの虚しさ。それが神であろうと王様であろうと、同じことである。無私に生きることは尊いことであるが、本作品の音楽家リュリは違う。心血注いで音楽を生み出してきたのはルイ14世を喜ばせたかったのが最初だったのに、次第に王の寵愛を維持するためへと変節していく。そこに腐敗を感じさせる。あくまで自分の創作の喜びが第1でなければならないのだ。

太陽王と呼ばれたルイ14世の生涯。宮廷内部での権力闘争。絶対王政下での権力者と芸術家の関係。17世紀のフランス宮廷社会を興味深く観る。

舞踏家としても一流だったルイ14世をブノワ・マジメルが見事に演じている。彼のダンスシーンが本作品のポイントになっている。

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2005/12/23

ライフ・アクアティック

製作年:2005年
製作国:アメリカ
監 督:ウェス・アンダーソン

海洋冒険家として世界的名声を得てきたスティーヴ・ズィスー。彼が率いる“チーム・ズィスー”の先の航海で、チームの長老・エステバンが幻の怪魚“ジャガーザメ”によって喰い殺されてしまう。その冒険を記録した新作映画は散々な酷評を受け、次回作の契約も打ち切りになってしまうのだが…。

独特の世界観と映像センス。コメディーと呼ぶには爆笑するほどのネタでなく、記録映画の撮影秘話にしたはあまりに現実離れしている。特定のジャンルには収まらない魅力。この辺はウェス・アンダーソン監督の前作「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」(2001)と共通するものが多い。

自分の才能は枯れてしまったのか。かつて海洋記録映画の秀作を作り続けていたスティーヴ(ビル・マーレイ)。しかし、この5年ほどスランプが続く。資金は枯渇し、古くからの仲間を亡くし、製作パートナーでもある妻は去っていく。状況はどんどん悪化する一方で、ズィスーの息子と名乗る青年ネッドや妊娠中の女性記者ジェーンらが加わり、航海は進んでいく。血のつながりのない擬似家族が彼を再生させていく。クライマックスで“ジャガーザメ”を探して海中へもぐるシーンが感動的なのは、彼らの絆が強固に感じられからであろう。

エンド・クレジットにかかるデヴィッド・ボウイの「クイーン・ビッチ」がクール。ブラジリアン・ソウルのカリスマと言われるセウ・ジョルジがポルトガル語でカバーしたデヴィッド・ボウイのヒット・ナンバーも魅力あふれるものだった。音楽のセンスも秀逸だった。

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2005/12/22

亡国のイージス

製作年:2005年
製作国:日本
監 督:阪本順治

東京湾沖で訓練航海中のイージス艦“いそかぜ”が副長の宮津と某国対日工作員ヨンファによって占拠されてしまう。宮津は政府に対し特殊兵器“グソー”の搭載されたミサイルが首都圏に向けて照準を合わせていることを宣告する。艦の構造を熟知している先任伍長の仙石が独り、艦を取り戻しに向かうのだが…。

日本でこうしたポリティカル・サスペンス映画が製作されることは大いに歓迎したい。だが、このような映画はハリウッドから数え切れないほど秀作が生み出されている。日本的なオリジナリティーを求めていたのだが、その期待には適えられなかった。

マイナスポイントは、後半の展開がいささか雑になってしまったところ。特に仙石伍長(真田広之)が単独で特殊工作員と対決するとき、その危機をあまりに無造作で都合良く解決してしまうところが気になった。そのディティールの物足りなさ。見所のひとつであるクライマックスでの彼とヨンファ(中井貴一)が闘う場面もそうだ。仙石が1人でなく如月(勝地涼)と協力してひとりずつ倒していく。そんな展開にすればもっと現実味が増すしもっと面白くなった筈だ。

政府の対策本部の休憩所で岸辺一徳と佐藤浩市が煙草を吸いながらの会話が、本作品の中で最も興味深いものであった。彼らの活躍ももう少し観たかった。

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2005/12/20

バッド・エデュケーション

製作年:2004年
製作国:スペイン
監督:ペドロ・アルモドバル

本当にイグナシオは幼馴染なのかどうかというミステリー展開を期待していると、あっけなく裏切られてしまう。アルモドバル監督はフィルムノアールを意識して作ったと言っているが、そんなジャンル映画には収まらないところがこの監督らしいと思う。

ガエル・ガルシア・ベルナルの女装ぶりが素晴らしい。このところたくさんの映画に出演しているが、そのたびにキャリアを充実させていることがよく分かります。

赤を基調した映像のコントラストが秀逸。そして、コラージュ風のタイトルバックと音楽だけでも、この映画を観た甲斐はあった。ここだけでも何度も観直したくなるくらい、とてもクールだった。

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2005/12/19

英語完全征服

製作年:2003年
製作国:韓国
監 督:キム・ソンス

地方公務員のヨンジュは学生時代、掃除当番にさえ選ばれたことのない平凡な女の子だった。ある時、役所の窓口に来る外国人に対応するため、ヨンジュが英会話学校へ通うことになる。嫌々ながらも授業を受けることになったヨンジュだが、そこでお調子者の青年ムンスに出会い一目惚れしてしまうのだが…。

ヨンジェの行動が、いかに笑いを取るためとはいえ無神経な行動を取り簡単にばれる嘘を繰り返す。あまりに非常識すぎて笑うに笑えない。特に許せなかったのはムンスの母とビクトリアの通訳をするところ。いかに嫉妬心からとはいえ、あんな嘘をついてしまっていいのか。この恋人と妹の取り違えも、もう少し巧くエピソードを重ねられなかったか。観客にもずっと恋人と思わせておくような演出があれば良かった。

語学を習うということは、自分の気持ちややりたい事を相手に伝えたいということが大前提である。ヨンジェはそれ以前に母国語であっても、気持ちが巧く伝えらない娘である。それは言いたい事が言い出せないという内気さではなく、誰が見てもムンスへの想いがあからさまで筒抜け状態である。そのために周りに苛立ちしか与えない。応援したくなるような性格ではないのだ。その出発点は良しとしよう。そこで、この英会話教室での学習を通じてコミュニケーション能力を高めていく展開になればいいのだが、最後は英語ではなくて韓国語がいいという落ちになってしまう。英会話の妙味がほとんど生かされていない。

もう一つ惜しいのは、地下鉄が嫌いでバスが好きだと言っていたヨンジェが、クライマックスのシーンで地下鉄に乗るのだが、そこになんの仕掛けもないことだ。地下鉄が嫌いという理由がこちらによく伝わってこなかったこと。そして、地下鉄を乗るに当たってもう一つエピソードを盛り込んでくれると面白くなった筈だ。

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2005/12/18

愛についてのキンゼイ・レポート

製作年:2004年
製作国:アメリカ 
監 督:ビル・コンドン

アルフレッド・キンゼイは学生時代、厳格だった父の望んでいた工学科をやめて生物学の道を選んだことで父との関係を悪化させてしまう。その後、インディアナ大学の動物学の助教授となり、教え子であるクララと恋に落ち結婚する。ある時、キンゼイは性の悩みを持つ学生のために“結婚講座”を開講するようになるが…。

規制の概念を打ち破り、一つの夢の実現に賭けて懸命に生きる男。旧社会は彼らの成功が見えてくると徹底的に抹殺しようとする。キンゼイも大いに叩かれた。苦い挫折も味わう。この辺は「アビエイター」(2004)のハワード・ヒューズを思い出す。その痛んだ心を癒し活力を取り戻す森の場面が良い。彼の学者としての原点は森から始まり、森によってその出発点を思い起こされる。こうしたエピソードの構成が抜群に巧い。

ノーマルとアブノーマルの境目はどこで決められるのかという深遠な問い掛けも興味深い。そのことを科学的に検証するためには、膨大な統計を集めていくという事で話は進んでいくが、そうした数字では現われない一人ひとりのドラマが浮かび上がってくる。だが、忘れていけないのは性犯罪者の存在だ。彼らまでノーマルとしていいのか。面談調査の1人にそうした人物を登場させているところに視野の広さを感じる。

本作品を豊かにしているのは、父と息子の関係であろう。高圧的で自分を認めない父に反発する息子。キンゼイは父親となると、息子に対して自分の父と同じような態度をとる。この辺の連鎖が秀逸であるし、また父と和解する場面も大いに心が動かされた。

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2005/12/15

タイムライン

製作年:2003年
製作国:アメリカ
監 督:リチャード・ドナー

フランス南西部の修道院跡で発掘プロジェクト行われている。14世紀の地層から考えらないものが見つかる。現代の製品と思われる眼鏡のレンズと“Help me”と書かれたメモ。それらはプロジェクトの責任者・ジョンストン教授のものと判断された。教授はスポンサーであるハイテク企業ITCへ向かっていたが…。

あまり良い評判を聞いていなかったので、期待しないで観た。そのつもりでみれば、それなりには楽しめる。タイムスリップしたところから危機の連続で、躍動感に富んでいる。

だが、不必要に感じる戦闘も多かった。歴史がなぜ面白いかというと、人がどのように生きどのように死んでいったか知ることであり、それは人間を学ぶことに他ならないと語ったアンドレ・マレク(ジェラルド・バトラー)。教授の息子クリス(ポール・ウォーカー)を主人公にするのではなく、マレクを中心に話を展開していった方がずっとすっきりしてより面白くなったのではないかと惜しまれる。

一番引っ掛かってしまうのは、タイムトラベルものでは必ず問題となってくる歴史的事実を変えてしまっていいのかという逡巡があまりなされていないことだ。大体、遺跡の中から教授の助けてくれというメッセージを見つける発端からしておかしい。そもそも、自分が望んで過去に旅立っていったのだ。メッセージを残す行為自体が歴史を冒涜するものに感じられる。

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2005/12/13

受取人不明

製作年:2001年
製作国:韓国 
監 督:キム・ギドク

1970年末の在韓米軍部隊が駐屯している村。米兵との混血児であるチァングクは母と村の外れにある赤いバスで暮している。小さい頃片目をけがしたウノクは、コンプレックスのためいつも前髪で顔の半分を隠していた。米軍基地前の肖像画店で働く気弱なジフムはウノクに好意を抱くが…。

紛れもないキム・ギドク監督の作品だ。あまりに痛烈で胸がかき乱される。逃れる術のない苦しみを抱き、罪を重ねてしまう人たち。「受取人不明」というタイトルが彼らと重なってくる。

アメリカの軍用機の描写が繰り返されているが、今も朝鮮戦争の影響下にあることを暗示させている。戦争で片足を負傷した父。戦死したと思われていて実は北に亡命していた父。アメリカに帰国したまま音信不通になってしまった父。主人公三人の家庭は朝鮮戦争によって傷つき、そのことが息子、娘に暗い情念を抱かせている。そうした元凶をアメリカにあるとして非難するのであれば、少女ウノクに近付くアメリカ兵ジェームズをもっと悪く描いていただろう。米軍の中で異端であり続ける彼も戦争によって傷ついているアメリカ社会の象徴である。

本作品では目に関わるエピソードが執拗に続く。幼い頃ウノクはおもちゃの拳銃で右目を負傷する。ジフムの目はウノクの部屋を覗きみる。犬商人ケヌンはチァングクに「犬に負けない目を持て」と教える。ウノグを襲った二人組に復讐するために自家製の拳銃を向けるがジフムだが暴発し右目を負傷する。ウノクの目を直すことで彼女に接近するジェームズ。見事に連鎖していくのだ。それは不条理な世界に振り回され、適えたい思いは打ち砕かれ、コントロールできない社会への苛立ちを象徴しているのではないか。

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アナーキスト

製作年:2000年
製作国:韓国
監 督:ユ・ヨンシク

1924年の上海大虐殺で家族を失った少年サング。復讐のため破壊活動を行い公開処刑されることになるが、義烈団の団員たちに救われそのまま彼らと生活を共にする。彼らは洗練された服装で大きな仕事の前には記念写真を撮ったり、仕事の後にはワインやビールでパーティーに参加したりしていたが…。

自分たちの理想に向かって、いまやっていることは正しいのだろうか。ハン(キム・サンジュ)が後半で呟くこの言葉が重く響く。祖国独立を掲げて戦っている筈なのに、いつしか活動資金確保のために麻薬の取引現場を襲撃することになってしまう。日々、目標に向かって懸命に頑張っているつもりでも、いつしか手段を守るための仕事になってしまうことがある。常日頃から何の為にこの仕事をしているのか、振り返ることが大切なのであろう。

大仕事に取り掛かる前に、全員で記念写真を撮るシーンが繰り返させる。よくよく考えてみると組織全員の顔写真が明らかになってしまい、非合法活動としてはあまり巧い儀式とは言えないだろう。実際に本作品でも捜査に利用されてしまっている。だが、区切り区切りでいいアクセントになっているし、感傷的な思いが広がる。

本作品のマイナスポイントは、ドラマが起承転結の“転”ぐらいから始まった感じで、それまでの主人公達の背景が感じられないこと。本作品はサング(キム・イングォン)が義烈団に入るところから始まり彼の成長ドラマを主軸となっているはずだが、視点が散漫でまとまりがない。少なくともサングと写真館の娘リンリンとの恋の過程をもっとじっくり描くべきだ。その為、クライマックスの時計のエピソードが生きてこない。

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2005/12/12

姑獲鳥の夏

製作年:2005年
製作国:日本
監 督:実相寺昭雄

昭和27年。夏の東京。産婦人科久遠寺医院の院長の娘・梗子が20ヶ月も身籠もったままでいるという不気味な噂が広まっていた。しかも、彼女の夫・牧朗は1年半前に失踪し行方不明のままだという。小説家・関口は生活のため雑誌「稀譚月報」の依頼で、この噂を取材することになったのだが…。

原作を既読だったので、ほほ忠実に物語を映画化していることは分かった。しかし、これら予備知識がないとどこまで人間関係や舞台設定などを理解できるのだろうかと思えてしまう作りであった。映画は映画として、それだけを観てストーリー展開を把握できるというのが基本中の基本であろう。まず、ここがマイナスポイント。

冒頭での「不思議なものなどこの世にはない」ということを論証する京極堂(堤真一)の話も、小説で読めば理解できていないものもなんとなく分からされてしまう説得力があるのだが、台詞で聞くと中途半端なまま宙に浮いた感じがする。ここも省いてしまって良かったのではないか。

ここではネタバレになるので書かないが、ミステリーとしては誉められない仕掛けであって、これならどんな風にでも作れてしまうだろう。これは原作のときにも思ったが、映像で見せられるとますますその感じが強くなる。実相寺昭雄監督ならでは幽玄な映像世界は見事なものではあるが。

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2005/12/11

恍惚

「恍惚」★★★★(盛岡フォーラム2)
2003年フランス 監督:アンヌ・フォンテーヌ
出演:エマニュエル・ベアール ファニー・アルダン
   ジェラール・ドパルデュー
   ウラディミール・ヨルダノフ

ある時、カトリーヌは夫ベルナールの浮気を偶然に知ってショックを受ける。翌日、彼女は会員制のクラブで妖艶な魅力を持つマルレーヌと出会う。カトリーヌは彼女にベルナールを誘惑し、その内容を逐一報告してほしいという仕事を依頼する。マルレーヌはナタリーという偽名を使いベルナールに接近するが…。

エマニュエル・ベアールとファニー・アルダン。ニ大女優の迫真の演技に魅了される。二人の間に流れる微妙な感情が絶妙に表現されている。

二人は“ナタリー”という別の人物を作り上げていく作業に熱中することで、いつしか再生されていく。日常生活から離れ、フィクションを作り上げていくということは、どこか人を元気にさせていく効果があるのだろうか。ストーカーと脅迫された女性の間で別の女性像を作り上げていく塚本晋也監督の「六月の蛇」(2002)を思い出した。

カトリーヌ(F・アルダン)は、ベルナール(J・ドパルデュー)のこともマルレーヌ(E・ベアール)のこともどこまで理解していたのか。何もかも知っているつもりで実は何も知らないということだ。その皮肉さが蕭然とした余韻を残す。

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2005/12/10

スター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐

製作年:2005年
製作国:アメリカ
監 督:ジョージ・ルーカス

クローン大戦の勃発から3年、依然としてジェダイの騎士団と分離主義者たちとの戦闘は各地で繰り広げられていた。そんな中、パルパティーン最高議長がドゥークー伯爵によって誘拐される事件が発生する。オビ=ワン・ケノービとアナキン・スカイウォーカーの活躍によって無事救出されるが…。

何故、アナキンはダークサイドに落ちていったか。その過程が見事に描かれている。パドメの死を防ぎたいという愛の思いからという表面的な理由も出ているが、その裏側に巨大な力を有したいとする内なる欲望に抗しきれなったという事も感じさせる。どちらか片面だけであれば、アナキンはダークサイドを選ばなかったと思う。両面が渾然一体となったために、アナキンは逃れる術を失ってしまったのだ。この辺はシェイクスピア劇を見ているようだった。

そして、ジェダイたちがアナキンのことをどうして防ぐことができなかったのか。フォースを有するジェダイとはいえ、人の心の内を探ることも変えることもできないということか。その力の限界が物語の世界をより豊かなものにしている。全6作の中で最も見応えのあるドラマに仕上がっていると感じました。

ほんとうにこのシリーズが終ってしまうのだという寂寥感。エンド・クレジットのジョン・ウィリアムスの音楽を聴きながら、自分の28年間を思い出し感慨深かったです。

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2005/12/09

岸辺のふたり

「岸辺のふたり」★★★★(盛岡フォーラム3)
2000年オランダ イギリス 
監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット

自転車に乗った父親と幼い娘が川の岸辺へとやって来る。やがて父親はボートに乗り込むと、娘を岸に残したまま行ってしまった。そしてそのまま戻ってくることはなかった。その日以来、娘は雨の日も風の日も、父親の帰りを待って岸辺を訪れ続けた。やがて月日は経ち、娘も少女から大人へと成長していくのだが…。
第73回アカデミー賞で短編アニメ賞を受賞。

この川の岸辺は生と死の境界線であろう。旅立っていく父親は黄泉の国に行き、女の子はただ父親の帰還を待っているのではなく、父のことを追悼していたのではないか。やがて、年を重ねるごとに海が干上がって草原になっていくのは、彼女自身の死期が近付いていることを表していると思いました。

台詞もなく自転車だけで一人の女性の生涯が浮かび上がる描写が見事である。微妙な体の動きで彼女の年齢が伝わってくる。陰影深い影の表現も美しかった。

哀愁を帯びたアコーディオンの響きも画面によく合っている。

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頭山

「頭山」★★★★(盛岡フォーラム3)
2002年日本 監督:山村浩二

けちん坊の男がサクランボを食べていたが、種を吐き出すのがもったいなくてそのまま食べてしまう。すると不思議なことに頭の上に桜の木が生えてきてしまう。やがてそこが桜の名所となり人々が集まるようになった。あまりのうるささに腹を立てた男は桜の木を引き抜いてしまうが…。

アニメーション作家・山村浩二の作品集「ヤマムラアニメーション図鑑」の中で「カロとピヨブプト」や「どっちにする?」などと一緒に鑑賞する。2002年第75回アカデミー賞短編アニメ賞にノミネーションされた時からずっと観たかったので、ようやくその思いが適いました。

最大の注目は落語の語りの中で成立するシュールで不条理な世界を、いかにして映像化しているのかという点です。遠近感をなくし、頭の上と男の世界が違和感なく存在しています。なるほどアニメーションならではの異界となっております。この味わいは実写では難しいものでしょう。

その他の短編もそれぞれ楽しかった。自由な発想で作り上げられ、のびのびとした感じが良かった。音楽に合わせた編集も見事でテンポよく見せられる。「カロとピヨブプト」はチョコアニメの「クルテク」に似た味わいを持つ。

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2005/12/08

愛の神、エロス

製作年:2004年
製作国:アメリカ/イタリア/フランス/中国
「エロスの純愛~若き仕立屋の恋」
監 督:ウォン・カーウァイ「エロスの悪戯 ペンローズの悩み」
監 督:スティーヴン・ソダーバーグ「エロスの誘惑 危険な道筋」
監 督:ミケランジェロ・アントニオーニ「エロスの誘惑~危険な道筋」

「若き仕立屋の恋」。1963年の香港。新米の仕立屋チャンは有名な高級娼婦ホアのもとへ仮縫いにやって来たが…。「ペンローズの悩み」。1955年のニューヨーク。広告クリエイターのペンローズは一人の美女が登場する奇妙な夢に悩まされるが…。「危険な道筋」現代のトスカーナ地方。クリストファーは妻クロエとの関係に行き詰まりを感じていたが…。三人の巨匠監督が“エロスの純愛”をテーマにしたオムニバス。

三作品の中で一番面白かったのはS・ソダーバーグ監督のもの。直接的にはエロスとあまり関係なさそうであるが、話の展開を気に入っている。短編映画として収まりの良い話だった。幕切れで繰り返される紙飛行がエロスを象徴しているとも感じられた。

W・カーウァイ監督の作品が最も濃厚なエロスを感じる。そのまま「花様年華」(2000)や「2046」(2004)に繋がっていく世界であった。ホア(コン・リー)は鏡を見る場面が何度も続くが、落ちぶれていっても自分の矜持を失わない気高さを感じさせました。

やっぱり問題は、M・アントニオーニ監督の作品だ。難解だったと終ってしまってはつまらないので、色々と考えをめぐらせてみるが、この限られた時間では、説明不足と言わざるを得ない。

この3つのエピソードを結びつけるロレンツォ・マットッティの絵画とカエターノ・ヴェローソの音楽が素晴らしかった。

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2005/12/07

隣人13号

製作年:2004年
製作国:日本 
監 督:井上靖雄

村崎十三は小学校でクラスメートの赤井にいじめられた記憶を10年たった今でも引きずっている。ある時、十三は古びたアパートの13号室に引っ越す。同じ日にその真上の23号室に引っ越してきたのは暴走族を引退し今では妻子持ちの赤井だった。十三は赤井の勤める建築会社に就職するが…。

もっとスプラッタ度の高い復讐のドラマかと思っていたら違っていた。赤色に彩られた映像でバイオレンスシーンもたくさん出てくるのであるが、清々しい感じで終る幕切れになっていたのが意外だった。この驚きがまず一つ。十三と13号との戦いこそがメインプロットだったのだ。

トイレの場面が徹底して繰り返し登場してくる。冒頭で出てくる荒野の一軒家と共に、閉じ込められた自我という象徴なのであろう。

ゲスト出演している三池崇史監督が可笑しい。「地球で最後のふたり」(2003)の時もそうだったが、俳優として参加する時も自身の監督作品のようにアイデア豊富でまともでないアブノーマルな感じの役柄を好んで選択しているのであろうか。

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2005/12/06

スカーレットレター

製作年:2004年
製作国:韓国
監 督:ピョン・ヒョク

写真館店主が殺害された事件を担当するギフン刑事は、現場に血まみれで立ち尽くしていた妻ギョンヒを容疑者と見て捜査を開始する。そんなギフンは美しく貞淑な妻スヒョンがありながら、スヒョンの音大時代からの親友で情熱的なジャズ・シンガー、カヒとも不倫の関係にあったが…。

冒頭で大きなボリュームで音楽を聴きながら乗用車を運転するギフン刑事。自分の人生を完璧にコントロールしているという自信溢れる姿だ。しかし、その自動車によって彼の人生は崩壊させられてしまう。その皮肉的な対比が一つ。

このドラマにもう一つ共鳴できないのは、ギフンと写真館の妻との関係がはっきりしないところ。彼女との出会いが彼の心境になんらかの影響を与え、それが妻スヒョンと不倫相手のカヒに伝達したという風には見えなかった。このドラマの転機はカヒの妊娠にあった筈だ。どうもその辺が宙に浮いてしまった感じがする。

しかし、あの犯行現場の状況で凶器が見つからないというのはないであろう。そして、ギフン刑事が素手で犯行現場の品物を触っていくところも、あれって思う。著しくリアリティが削がれてしまっている。

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2005/12/05

バットマン ビギンズ

製作年:2005年
製作国:アメリカ 
監 督:クリストファー・ノーラン

大富豪の家庭に育ったブルース・ウェインは少年時代、井戸で遭遇したコウモリの大群に圧倒的な衝撃を受け、さらに両親が目の前で殺されて大きなショックを抱え込んだまま成長した。ある時、デュガードと出会い、彼の薦めによりヒマラヤの奥地に潜む“影の同盟”という自警団のもとで心身を鍛えるが…。

まずクリスチャン・ベイルの肉体に注目したい。短い期間で「マシニスト」(2003)と本作品を続けてみたので、その肉体の変貌に恐れ慄いた。肋骨が浮いて見えるような痩せ細った体が、筋肉隆々の肉体へ変わっているのだ。これが同じ人間かという驚きがひとつ。

いかにしてバットマンが誕生していったか、その過程を克明に描いている。「正義は復讐ではない」、「転落したのはまた這い上がるためだ」など印象深い台詞が反復して使用され、哲学的な興趣を持つ仕上りになっている。腐敗した都市を再生させたいとする思いはバットマンも秘密結社「影の同盟」も同じなのに、その手法を巡って両者は対立する。単に善と悪を明確に分けらない奥深い物語となっている。

モノレールを乗っ取り、都市を象徴する巨大なビルに突っ込んでいくというプロットは、9・11同時多発テロを連想させ絵空事でない重いリアリティを与えている。

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2005/12/04

故郷の香り

製作年:2003年
製作国:中国
監 督:フォ・ジェンチイ

北京の役所に勤め、妻と生まれて間もない息子と暮すジンハーは高校時代の恩師が抱えた問題を解決するため10年ぶりに帰郷する。そこで思いがけず初恋の女性、ヌアンと再会する。薄汚れていて見るからに生活に疲れている様子だった。10年前とはまるで別人のような姿にジンハーは激しく動揺するのであるが…。

「誰か他の人はいなかったのかい?」。耳と口が不自由な幼馴染のヤーバと結婚し6歳になる娘が持つヌアンにジンハーはそう訊ねる。この言葉でジンハーが徹底的に嫌いになった。都市生活になじみ、故郷の恋人ヌアンを捨ててしまったことは責められない。それまでのヌアンがジンハーに対してとってきた姿勢にも問題はあった。二人の別れは、ある種仕方がないとも言える。しかし、10年ぶりに会ってこの言葉はないだろう。あまりにも無責任で無神経ではないか。橋ですれ違った時に、ジンハーのことを気付いていたのに、知らない顔で通り過ぎたヌアンの気持ちが痛々しく伝わってくる。

溌剌としていたヌアンがなぜ現在のようになっていったのか。まるでミステリー劇のように、その答えを探して物語は進んでいく。そして、二人の恋話に単なる粗野な男としか思われていなかったヤーバ(香川照之)の陰が色濃く反映されていく。後半に入ってくると彼のひとり舞台だ。ヤーバの一途な思いが画面へ見事に浮かび上がってくる。この辺りが絶妙に巧い。本当の主役は彼であったということが意外性を持って迫ってくる。

雨、池、川と映画全体が水に彩られている。湿った農村風景の描写が素晴らしかった。

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2005/12/03

フォーガットン

製作年:2004年
製作国:アメリカ
監 督:ジョセフ・ルーベンス

テリーは9歳になる一人息子サムを飛行機事故で亡くしてしまう。それから14ヵ月たったいまでも立ち直れずにいた。ある時、テリーは記念写真やアルバム、ビデオテープからサムだけが消えているのを見つける。動揺するテリーにかかりつけの精神科医は息子など最初から存在しなかったと告げるのだったが…。

鑑賞前から謎の仕掛けを知ってしまっていたので、良い意味で期待外れという感じではなかったです。もし、これを別種の映画だと思ってみていたらどうなっていただろうか。大いに立腹したからもしれない。これはこれで良かった。

上空や窓越しのショットが多用され、常に第三者の視線を感じさせる。ジュリアン・ムーアの行動と共に風が吹いているところも不穏な感じを抱かせる。そして、自動車の衝突や上空からの襲撃など、予兆なく表れ、驚かしの演出はなかなかのものだった。

とはいえ、事件解明へのプロセスや逃亡中のディティールなど安易な展開も多々あり、細部に爪の甘さを感じる。

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2005/12/02

マシニスト

「マシニスト」★★★★(盛岡フォーラム2)
2003年スペイン アメリカ 
監督:ブラッド・アンダーソン
出演:クリスチャン・ベイル
   ジェニファー・ジェイソン・リー
   アイタナ・サンチェス=ギヨン
   マイケル・アイアンサイド

機械工として働くトレバーは極度の不眠症に陥り1年間も眠っていない状態だった。身体は痩せ衰え、誰もが心配する中、毎日工場に向かい黙々と働いていた。ある時、彼は自宅の冷蔵庫のドアに不気味な張り紙を見つける。それと前後して、彼の周囲では不可解な出来事が次々と起こり始めるのだが…。

謎が謎を呼ぶ展開に魅了される。彼は何故不眠症になったのか? 何故、1:30になるとコーヒーショップから出てきてしまうのか? 繰り返し登場するY字型の分岐点の意味は? それらの謎がどんどん膨らんでいき、ミステリー的興趣を増していく。私は、別の答えを推理していたが見事に外れてしまった。

映画的文法に沿った画面作りも評価したい。何度も鏡を見るということは、自分のアイデンティティーを求めている表現。謎の男アイヴァンが初めて登場するときには雷雨となっている。雷は不穏な事件、不可思議な出来事などが起こる時の前兆として表現されるものだ。

ヒッチコック作品を意識したという音楽。くすんだ色調の映像。そして何より、異常な程にやせこけたクリスチャン・ベイルの幽鬼的な肉体の圧倒的存在。サスペンスの雰囲気作りにも趣向が凝らされている。

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2005/12/01

コーラス

製作年:2004年
製作国:フランス 
監 督:クリストフ・バラティエ

1949年。フランスの片田舎。音楽教師クレマン・マチューが“池の底”という寄宿舎に赴任してきた。そこでは親をなくした子どもや素行に問題ある子どもたちが集団生活をしている。校長は問題を起こす子どもたちに容赦ない体罰を繰り返していた。そうした校長の姿勢に疑問を持つマチューは子どもたちに本来の素直さを取り戻してもらおうと合唱団の結成を決意するが…。

第30回セザール賞で音楽賞、音響賞を受賞。

ストーリー展開に文句はないのだが、もう少しエピソードをしっかり描いて欲しい。一筋縄ではいかない生徒たちの心をいかにしてつかんでいくか。校長たちの言う「やられたらやりかえせ」の方針をいかにして覆していくのか。それらの過程をもう少しじっくり見たかった。

もうひとつ気になったところは、マチュー先生が寄宿舎を出ていくときに生徒が投げ入れた紙飛行機の手紙を全部拾わないで行ってしまうところ。残された紙飛行機の生徒がどんな気持ちになるかと思うと、心が静まらない。

印象深いシーンは、問題を起こし合唱を止められていたピエールが、マチュー先生から許しを得たときの本当に嬉しそうな表情を浮かべるところ。そんな彼が世界的指揮者として成功を成し遂げていくのに、音楽の才能を見出してくれた恩師の名前すら、覚えていないのだ。なんとも苦い感情が残る。

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