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2005/10/02

エレニの旅

Eleni1

製作年:2004年
製作国:ギリシャ/フランス/イタリア/ドイツ
監督:テオ・アンゲロプロス

1919年頃。ロシア革命によってオデッサから追われ、難民となったギリシャ人の一群がテサロニキ湾岸に降り立った。少女エレニはオデッサで両親を失い、リーダー格の男スピロス一家に拾われる。その10年後。スピロスたちは住み着いた土地に“ニューオデッサ”という村を築いていたが…。

アンゲロプロス監督でしか作り得ない深みのある映像美にまず圧倒される。冒頭のオデッサから逃れてくる集団の描写から素晴らしい。ここだけで神話的雰囲気を漂わせる。単に絵画のように美しいということだけでなく、観る者に重々しい衝撃を与える何かを秘めている。巨匠の風格を感じさせます。

常に映像で語る様式が続くので、少ない台詞が異彩を放っている。例えばこの場面。エレニが獄中から釈放され息子の戦死を知って気を失ってしまう。そのうわ言で「水がありません。石鹸がありません。息子に手紙を書く紙がありません」と何度も繰り返す。これはまさに詩そのものだ。

“忌まわしい内戦”という呟きもあった。内戦の悲劇は劇中のように兄弟同士が戦うような事例を生むことにある。韓国映画の「ブラザーフッド」(2004)の兄弟を思い出す。そして、幕切れでのエレニの慟哭。この哀しい響き。胸の抉られるような思いが今も続く。

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コメント

こんにちは〜。
重厚で見応えのある映画でしたね〜。
エレニのうわごとは本当に一編の詩でした。
何度も観る元気はないけれど、記憶に残る映画です。

投稿: ミチ | 2005/10/02 21:40

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