製作年:1999年

2005/11/04

39 刑法第三十九条

製作年:1999年
製作国:日本
監 督:森田芳光

大学で心理学の研究をしている精神鑑定人の小川香深は、精神医学者の藤代の助手として司法精神鑑定に参加することになった。若い夫婦の殺害事件で逮捕された劇団員の柴田容疑者は犯行当時の記憶がなく殺意を否認していた。そこで国選弁護人・長村が被告の精神鑑定を請求したのだったが…。

本作品が見応えあるのは、柴田(堤真一)の事件の謎を追いかける展開を縦糸に、母との関係、事件を起こした父の記憶などに悩む香深(鈴木京香)の私生活が横糸になって、奥深いドラマ構成になっているためである。そして、「心神喪失者の行為は、罰しない」「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」という刑法を激しく糾弾するテーマ性も鋭く胸を突く。

出演者たちの巧みな演技にも感心した。多重人格を見事なくらいに演じ分けた堤真一。手の震えなどのディティールが活かされている。藤代教授を演じた杉浦直樹と、刑事役の岸部一徳も個性的であった。

森田芳光監督の食べ物に関する目配りはいつもながら見事である。香深の食卓にならぶ食べ物の異質さ。例えば洋菓子だけが何種類も並んでいたりして、普通に見ていると見逃してしまうがそのバランスの悪さは特筆ものである。そこに母(吉田日出子)の心にありようが映っている。

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2005/10/22

ブラッドシンプル ザ・スリラー

製作年:1999年
製作国:アメリカ
監督:ジョエル・コーエン

テキサスの片田舎で酒場を経営するマーティは短気でケチで従業員に嫌われていた。若い妻アビーは従業員のレイを誘惑する。ある時、マーティは怪しげな私立探偵の訪問を受けアビーとレイの事を聞かされる。二人がベッドにいる写真を見せつけられ、マーティは激怒するが…。デビュー作「ブラッド・シンプル」(1984)をコーエン兄弟自身で行った再編集版。

アビーもレイも私立探偵も、最後まで思い違いしたまま行動を起こしていく。そこにダークなおかしさがあるが、コミュニケーションの不全も感じて、もの哀しくなる。

映像表現の巧みさは特筆もの。カメラの動きで次のストーリーを予感させる。映像で物語を語るスタイルが卓越している。この辺はA・ヒッチコック監督を連想させる。

ただ不満もいくつかある。私立探偵のライターの使い方は優れたものだが、クライマックスにかけてもう一捻り欲しかった。また、アビーは拳銃を盗まれたことにずっと気が付かないでいるのはあまりに不自然だ。常に夫の影におびえているというのに。そして、死体を隠すのに、畑の真ん中に埋めるというのも如何と思う。最初に出てきた焼却炉が全く生かされていない。

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2005/09/26

ノッティングヒルの恋人

製作年:1999年
製作国:アメリカ
監 督:ロジャー・ミッチェル
出演:ジュリア・ロバーツ ヒュー・グラント
   リス・エヴァンス ジーナ・マッキー

ウエストロンドンのノッティングヒル。ここでウィリアムは小さな旅行書の専門店を営んでいた。ある時、ハリウッドスターのアナがふらりと店にやってきて本を一冊購入する。その後、オレンジジュースを買いに出かけたウィリアムは、街角でアナとぶつかってしまい、彼女にジュースをかけてしまうが…。

ドアを家の中から開ける場面が多用されている。このドアによって隔てられているのはアナ(ジュリア・ロバーツ)とウィリアム(ヒュー・グラント)がおのおの別々に住む世界である。その異次元とも言える世界を結びつけ接点をドアが象徴しているように感じられる。どうしてウィリアムに惹かれたのかアナの気持ちが分りにくいところもあるのだが、ドアの向こう側の世界は我々には見えないものなのだ。ドアを開ければ彼女がいたというように彼女の行動そのものが全てであると思う。

主演二人が愛らしい存在感を見せているのだが、リス・エヴァンスをはじめとして、傍役たちがみな素晴らしい。それぞれが独特のユーモアを漂わせていて楽しい。

サントラ盤を昔から所有していてよく聴いている。タイトルバックに流れるエルヴィス・コステロの「She」は名曲だ。映画の雰囲気と絶妙にマッチしている。

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2005/08/22

初恋のきた道

製作年:1999年
製作国:アメリカ/中国 
監督:チャン・イーモウ

中国、華北の小さな村。父の死の知らせを聞き都会から青年が母の元へ戻ってきた。悲しみに暮れる母の願いは病院から遺体を担いで村に戻るという伝統的な葬儀をしたいということだった。そのかたくなな母の姿に、青年は当時、村で話題になった両親の恋物語を思いだすのだったが…。第50回ベルリン国際映画祭で審査員特別賞を受賞。

割れた丼を修繕する。なくしてしまった髪留めが見つかる。初恋の物語は悲劇で終るというのが一般的であるが、本作品では一途な少女(チャン・ツィイー)の想いは困難にあってもいつか叶うのではないかと予感させるエピソードが続く。

その恋心はやがて村中に知れ渡ってしまう。最初はその恋に反対する母親であるが、少女のひたむきな想いにやがて情が移っていく。そして村人からも応援してもらえる。恋であっても、一生懸命な姿は周りの人々も幸福にしてくれる。この想いの象徴として村から町へ続く一本道が的確に描かれている。そのため、プロローグへ感動的に結びついていくのだ。

走るたびに揺れる三つ編みの髪。厚地の上着とモンペのようなズボン。教師のために一生懸命作る手料理。そんな素朴な田舎の少女をチャン・ツィイーが好演しています。

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2005/06/16

雨あがる

製作年:1999年
製作国:日本
監 督:小泉堯史

享保の時代。浪人の三沢伊兵衛とその妻は、長雨のため川を渡れず安宿で足止めをくっていた。ある日、若侍の争いを難なく仲裁した三沢は、通りかかった藩主・永井和泉守に見そめられ城に招かれる。三沢が剣の達人であることを知った和泉守は、彼を藩の剣術指南番に迎えようとするが…。
第56回ヴェネチア国際映画祭で緑の獅子賞を受賞

三沢(寺尾聰)の行く手を阻む雨。その性格から職を辞することが続いているが、諦めずに仕官の道を求め続ける不安定な心理を表現した雨であると思いました。また、「未練は切って捨てました」という台詞の時には、気持ち良い晴れの日になっていて、気候と感情が巧みに重なっているところを大いに感心いたしました。

日頃は優しげな表情を浮かべ弱者に救いの手を差し伸べる三沢。だが、いざ剣を抜いた時の迫力がたまらない。一瞬で凛とした雰囲気が画面に広がる。この対比も見事。

胸に残る台詞が一つ。「勝った者の優しい言葉は負けた者の心を傷つける」。ここに仕官をしくじり続ける三沢の姿が凝縮されております。

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2005/01/19

マルコヴィッチの穴

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製作年:1999年
製作国:アメリカ
監 督:スパイク・ジョーンズ

人形師として一流の腕を持ちながら仕事にあぶれているクレイグ。彼はニューヨークのど真ん中にあるビルの7と1/2階に事務所を構えた会社に就職する。ある日、書類整理していると、奇妙な穴を見つけるが…。

奇想天外な話を盛り込んだチャーリー・カウフマンの脚本がなんと言っても凄い。こういう発想がどこから生まれ
てくるのか。単にコメディーに終らず哲学的なテーマへと繋がっていくところが、斬新だ。

それをマルコヴィッチ本人が楽しげに演じているのも楽しい。

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